7/12/2019

サスペリア4Kレストア版の感想

立川シネマシティでアルジェント版サスペリアの極音上映を観てきました。アメリカのSynapse Filmsという会社が4年かけて4Kレストアをしまして、まずアメリカで去年、上映、パッケージソフトとして販売、そして日本でも今年、上映とパッケージソフトの販売が実現しました。35mmのオリジナルネガの保管状態が相当悪く、埃だけでなくて人の指紋までぺたぺた付いていたそうで、ということはオリジナルネガを手袋なしでかなり自由に触った人がいるってことです。
撮影監督のルチアーノ・トヴォリがレストア作業のカラーグレーディングを監修し当時の創作意図を再現。
音は当時、4チャンネルのディスクリートチャンネルサウンドでしたが、当時はこれが再生出来たのは限られた劇場だったと言われています。今回、音も当時を再現するようリミックスされ、半ばやり過ぎなほどにクルクル動く音を堪能できます。あるシーンで人のセリフが右チャンネル、ハサミの音がセンターチャンネルというのがあるんですが、これが例えば当時かなりクオリティが高いと言われたアンカーベイ社のDVDだと、ハサミの音が良く聞こえないのです。あまりチョキチョキ言ってない。今回のレストア版ではそういう音もクリアに聞こえます。
…と、まあ、これらは去年アメリカからBlu-rayを購入したときに確認できたことではあるのですが、かといって、劇場のスクリーンと音響システムで観られる機会を見過ごすわけにも行かず、と思い行ってきたわけです。で、実際どうだったかというと実は画質は家のプロジェクターで観た方が好みでした。マスターは同じはずなので劇場のプロジェクターの特性だと思うのですが黒が沈みきっていなくてコントラストがちょっと浅い。比べなければ全然問題ないのですし、他の方の感想を観てもレストアによる画質向上は高評価です。ただ、サスペリアってよく赤について言及されますが、光も案外重要で冒頭から暗闇の中で光るタクシーのヘッドライトとその周辺で照らされる雨の描写、ガラスに反射する顔とそのガラスのクリアで硬質な感じ、水たまりに反射する建物の存在感と水の冷たさ、そういうのは黒がひたすら黒く、明るいところは明るく描ける描写力によって訴えかけてくる力を持ちます。単にタクシーが走っている、ガラス越しに人がいる、水たまりがそこにあるという情報以上のものが写真や絵画の芸術と同様あるわけですから。
ただ、劇場のスクリーンで観られたことはそれだけで価値がある体験でしたし、あの音響システムで観られたことでサスペリアの音が本来持っていた広がり、移動、不安をあおる水流の音や人のざわめきを聞くことが出来たのは大きいです。これを体験するのはさすがに家では厳しいでしょう。
(写真は今までに買ったサスペリア)

7/08/2019

マジックの英語教室、こんな感じでした

6月23日・24日の一泊二日でマジックバー・サプライズのマジシャンとお客様親睦のための箱根ツアーが開催されました。そこで私はマジックの演技と、マジックに使う英語教室を担当しました。普段は英語方面に関しては、YouTubeでマジックに使うフレーズを解説したり、マジシャンに個別に特定の演技用の英語のセリフ作ったり、その言い方を教えたりなんてことをしてますが、今回は箱根で教室。

箱根にまで来て、大きなお風呂のある施設で、美味しく夕食を食べた後に「さて、英語を勉強するぞ」という人はなかなかいないだろうと思っていましたが、予想は当たり少人数制での進行。参加したのは主に実際の現場で英語の必要性を感じてる方々。サリトさんとかぺるさんとか。
前半は英語を話すときに、こう考えると文を組み立てやすいですよ、という捉え方の話とか、私がよく何かを説明するときに使う、
My job is a magician.
は、文法的に間違ってますよ、という話とか。

後半は、流れで参加者の一人の演技のセリフを組み立てていくことに。私の基本的な考え方としてマジシャン全員が全員、そこまで完全で、綺麗な英文を話す必要はない、と思ってます。マジシャンがかけることが出来る労力の総和を100とすれば、そのうちどれだけを英語に割くかは、これはもうマジシャン当人の選択次第ですし、どれくらいの完成度の英語を話すかも当人がどんなキャラクターで演じたいかによります。但し、いつも私が最初に説明するのは、例えば旅行英語なら自分の発した言葉がなかなか通じなくて、やり取りのプロセスが増えても通じればそれで良いですが、マジックとなるとスッと伝わらないと大切な瞬間を壊してしまう可能性があります。また、不思議なことが起こるときに発した言葉が伝わらず、観客の意識が「あれ? 今何と言ったんだろう?」と逸れてしまい、そこからマジックへと意識が戻ってやっと不思議を理解するなんてことになると、当然そのマジックはインパクトを失ってしまいます。
ですから、観ている側が殊更マジシャンの言っていることに集中しなくても、無理なく言ってる内容が頭に入ってくるレベルは必要で、そこを目指すレベルとしましょう、としています。

さて、具体的にどうセリフを作ったり直したりしていったかを、当日の例をかいつまんで説明してみます。例えば最初に
Invisible deck.
と言って、ある道具(!)を提示してたとのことで、そんなに「ジャーン!」って感じでないのであれば文にしましょう、と、
This is an invisible deck.
としたのですが、これ、一息にinvisible deckのとこまで言い切れればいいのですが、慣れていないとどうしても単語を一つずつ置いていくような話し方になってしまいがちで、その場合はinvisible deckに到達するのに時間がかかってしまいます。そこで、最終的には
This deck is invisible.
にしました。これだと最初に
This deck
と言えるので、話すペースが少しゆっくりでも様になりやすいです。

また、観客に「拍手~っ!」と言うようなイメージで
Clapping!
と言っていたとのことで、それが使い慣れていて負担なく出てくる単語なら、ここはそれで十中八九は通じるので良いとするか、または目的語を入れて
Clap your hands!
にしておくか…、と考えたところで、あることに思い至りました。すでにいくつかセリフを言ってもらってたのですが、LがRに近い音になる傾向がありました。これでも多くの場合は通じると思います。例えば動作付きで
I'm shuffling the cards.
と言うときとか。が、
Clapping!
の場合は実際、l出なくてrの方の単語も存在しているし、その意味がアレなこともあり、代わりに
Applause!
にすることにしました。

さて、このマジックのまさに不思議なことが起こる直前に使っているセリフを行ってもらったら、仮定法過去を使わねばならず、言い回しとしても言い慣れてない感じになってしまうので、そこは簡単な言い方に変更しましょう、と提案。肝心の時にセリフに集中しすぎてしまって、マジックの演技がおそろかになってしまっては勿体無いですから、ここはセリフの負荷を下げるべきと判断。でも、最初に私が提案したセリフは、その順でセリフを言ってはマジックが成立しないと言う類のものでして、あ、そうでした。うっかりマジックの仕組みの側面から考えるのを忘れてました。マジックのセリフは演技者の言いやすさ、伝わりやすさは勿論ですが、マジックの演技の構造的な面も考慮に入れないといけません。そこで、少し組み替えて微調整して今度こそ完成、と、そんなマジックに使う英語教室でした。
箱根まで来て英語とマジックに頭をひねるのもなかなか良いものです。